男は二度やって来る…
| このページを見てくれている人ならば、僕が毎週のように釣りに行っていることは知っていると思う。 その際に葛西という町に友人を迎えに行くことが多い。約束した時刻に友人Jのマンションの前に僕が車を停めると、Jがマンションから出てくるのだ。時刻はいつも0時〜4時くらいの深夜である。いつも僕は約束の時刻よりも少し早めに到着する。 その日も僕は予定より10分ほど早く、Jのマンションの前に到着していた。Jはいつも約束の時刻ピッタリに、そうほとんど1分の狂いもなくマンションから姿を見せる。しかしその日は、少し早めにJが姿を見せた。階段をカン、カン、カン…とJが降りてくる。手にはルアーの入ったタックルケースと釣り竿を持っている。(おっ、早いな。今日はやる気満々だな。) 僕は車の中から階段を降りてくるJの姿を見ながら思っていた。途中、一瞬だけ死角になってJの姿が見えなくなる場所がある。もちろんそれは一瞬見えなくなるだけで、どこかへ隠れたりできるわけではない。しかしその日のJは死角になるコンクリートの影に入ったまま姿を見せない。 (おや!?) 僕は不思議に思って車から降り、階段へ近づいた。死角になっていた場所の視界が開けてくる。…誰もいない。おかしい。Jがもしひき返したのだとしたら、ひき返す姿が見えるはずだ。そういえば、約束の時刻よりも早く、Jが出てきたというのも珍しい。 ガチャ…。 ドアの開く音に見上げると、Jが今まさに出てくるところが目に入った。時刻は約束通りだ。さっき見たJと同じ服装で、同じようにタックルケースと釣り竿を携えている。 「おい、今、ちょっと前に一度出てきたか?」 「あ、出てくるわけないだろう。」 「そ、そうか。」 やはりJは今初めて部屋から出てきたようだ。ならば先刻に現れたJとしか思えない人物は何者だろうか。時刻は深夜、東京都内で釣り竿をもち、Jと同じ服装で、同じマンションに同時刻に現れて、何処へか消える人物…。何かこの世のものでない気配を感じて僕は戦慄した。 |
![]() それから季節は流れ、その怪現象の記憶も彼方へと埋もれようとしていた頃。その日もJを迎えに僕は葛西に来ていた。 カン、カン、カン… 階段を降りてくる足音。近づいてくる人の気配を感じて僕はマンションの方に目をやった。 赤い服に釣り竿と真新しいタックルケースを携えたJが階段を降りて、こちらに歩いてくる。僕は車のドアの鍵を空けてやろうと一瞬Jから視線を逸らした。その一瞬にJの姿は消えてしまったのだ。 (あ、あれ!?) かつての記憶が甦ってきた。そういえば以前も同じようなことがあったっけ…。 カン、カン、カン… ふと見上げるとJが階段を降りてくるではないか。今見たばかりの赤い服、真新しいタックルケース、釣り竿…。 前回は謎の人物が姿を消してから、Jが現れるまでにはかなりの時間があったが、今度は消えたと思ったらすぐに上の階からJが姿を見せた。そこで、Jに出来事を話して尋ねてみた。本当に人影を見なかったのかと。 「み、見ないよ。そんな怖いことを言うなよ。」 Jは震えあがった。 しかし確かに僕は見たのだ。Jの姿を。Jはふたりいるということなのか。 あるいは釣りを楽しみにしているJの、はやる心が生霊となって先に出かけてくるのか。 それとも、これがよくいうドッペルゲンガー現象なのか。 いつの日かJは先に車に乗り込んでいく自分の後姿を見るのかもしれない。 |
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