トリコロールの女


何年か前の8月のことだ。僕は当時、某商社の営業マンで新宿、吉祥寺、立川など西東京を担当していた。

その日は立川のT島屋百貨店まで営業に行かなければならなかったが、前日の夜更かしがたたり、電車の中で寝て行かないと体がもたない感じだった。
そこで、多少回り道になるが、いったん東京駅に出て、中央線を使い、立川まで寝て行くことにした。

東京駅は中央線の始発だから、電車を一本遅らせれば必ず座って行ける。

電車に乗り込むと僕はすぐに眠りに落ちていった…。

…どのくらいたったのか…。
僕は強烈な悪寒に襲われた。誰でも寝ているとき、ビクッと来ることがあるだろうが、そんな生易しいものではなかった。
まるで悪魔が体の中を通り過ぎたような、あるいは死神の鎌が首筋に触れたかのような…
「うわぁっ」
僕は叫び声を上げて飛び起き、身構えた。

……電車は止まっていた。新宿駅に着いたところのようだ。夏の午後の光が妙に閑散とした車内に射し込んでくる。
(空いてるなぁ…)
確かに、中央線、それも新宿とは思えぬほど乗客が居ない。周りの座席はみんな空いている。

(あれっ)
いつのまにか目の前に誰かが立っている。チラッと顔を見たとたん、なんだか嫌な感じがした。

女だった…。長い黒い髪。顔は白い…いや、異常に白い。白粉を塗りたくったような、そう、ピエロの顔の白さ…。目や鼻はどんなだったか…記憶に無い。思い出そうとしてもイメージが無い。
肩からカバンを下げていた。カバンから傘の柄がのぞいている。その柄の不気味なこと。魔女の持つ杖のような木のコブなのだ。
何よりも印象に残ったのは両肩についたトリコロール柄の飾りだった。赤と、青と、白と…。

女は周りが空いているにもかかわらず、僕の隣へ座ってきた。さらに体を押し付けるようにしてグイグイと寄ってくる。

(気持ち悪いヤツだなぁ。)
僕は席を替わろうかとも思ったが、疲れと眠気に負けて、そのまま眠り込んでしまった。

………んっ…んっ…!!…しまったっ!!

目が覚めたとき電車は立川駅を離れ始めていた。

(仕方ない…。次の日野で上りに乗り換えて戻ろう。)
立川、日野間はほんの数分だ。すぐに日野の駅が見えてきた。

(よし…)
僕が日野で降りようと席を立った瞬間、僕が今まで座っていた席に、何かが飛び移ってきた。

(うわっ!?)


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